1. ホールディングアーチとは
ホールディングアーチは、奥歯が動かないように留めておく装置です。上あごと下あごでは、歯の根っこを支えている歯槽骨の硬さが異なるため、同じ矯正力をかけても歯の動きやすさが違います。上あごの骨は下あごの骨に比べて柔らかく、特に奥歯の部分は非常に柔らかいです。そのため、上下同じような力をかけていると上顎の奥歯が前方に動いてきてしまいます。矯正治療では、上下の噛み合わせの改善も非常に重要ですのでこのままだと正確な噛み合わせを得る事ができません。したがって、ホールディングアーチのような奥歯が動かないように留めておく装置が非常に重要な役割を果たします。
2. ホールディングアーチの適応症例
では、ホールディングアーチはどのような歯並びの方が主に使用するのでしょうか?
例えば、出っ歯を治療したい場合です。出っ歯を改善するには、まず抜歯をし歯を移動するスペースを確保します。そして、そのスペースを利用し前歯を内側に入れ込む治療を行います。しかし、その空いたスペースは何もしないままだと両隣の歯がその隙間を補おうと倒れきてしまいます。歯が倒れてきてしまうと歯を動かしていくスペースが十分に確保できなくなるため、最終的に前歯が完全に内側に入りきらなくなり、出っ歯の感じが残ってしまう可能性があります。そこで、ホールディングアーチを使用することによって奥歯が倒れてくるのを防ぐだけでなく固定させ、十分に前歯を下げていくことが可能になります。
3. ホールディングアーチの使用期間
装置の装着期間の目安は、「犬歯(3番目の歯)が後ろに移動するまでの間」といわれています。そのため歯の動きや動かす量によって個人差がありますが、およそ1年前後です。
犬歯が後ろに移動するまでの間とはどういうことなのか、というと、まず、抜歯で主に抜くのが「第一小臼歯」といって犬歯の後ろに生えている歯ですが、その後ろに生えているのが「第二小臼歯」です。前歯を下げるために犬歯を後ろに引っ張っていくと、隙間がだんだんと閉じていきいずれ第二小臼歯にくっつきます。この犬歯が第二小臼歯にくっつくまで、がホールディングアーチの使用期間といわれています。
4. ホールディングアーチの長所・短所
ホールディングアーチは他の矯正装置と違って、歯を積極的に動かす目的ではなく、歯を留めておく目的で使用されるため治療時の痛みがほとんどありません。装着後の違和感はありますが、痛みがないのはかなりの長所と言えるでしょう。
短所としては、取り外しができないため、食事や歯磨きがしにくいという点です。食事をする際に、装置のパラタルボタンというプラスチック上のプレート部分に食べカスが残りやすかったり、臭いが気になってくる場合があります。プラチックの裏側の部分はご自身でケアするのが難しい部分なので、通院時に歯科衛生士さんなどに相談してクリーニングしてもらうと臭いが改善されるかもしれません。
5. 今ではアンカースクリューが主流?
ホールディングアーチは上記のように、食事や歯磨きがしにくいという短所があるため最近では「アンカースクリュー」という矯正用インプラントの使用が主流になってきています。そのためホールディングアーチの使用頻度は徐々に減少してきました。
アンカースクリューを使用することによって、より強固な固定源を得る事が可能となります。前歯を後ろに引っ張りながらも、奥歯は前方に引っぱられずそのままの場所を維持できるので、抜歯したスペースを有効的に使い計画通りに閉じていくことができます。
アンカースクリューを用いることにより、歯列全体を後方へ移動する事が可能になるため、骨の状態にもよりますが今までは抜歯が必要であった症例も非抜歯で対応できるようになるかもしれません。アンカースクリューは非常に小さく従来の装置に比べ違和感や痛みが少ないです。食事の際の煩わしさや、歯磨きのしにくさも改善されます。歯茎に埋め込むので、アンカースクリューに対して抵抗感がある方もいるかもしれませんが、治療の幅が大きく広がるので、一つの選択肢として頭に入れておくと良いかもしれません。
6. まとめ
ホールディングアーチは、奥歯を固定するのに十分な効果を発揮しますが装着時の違和感や清掃性の悪さがどうしても欠点となります。そのため、近年では矯正用アンカースクリューが開発され、そのような欠点なく治療を進められるようになってきました。